厚生労働省が運営する職業情報提供サイト（日本版Ｏ-NET）jobtagの「客室清掃・整備担当（ホテル・旅館）」によると、令和3年度の客室清掃の有効求人倍率は1.5倍でした。有効求人倍率は「求人数÷求職者数」から算出されるので、有効求人倍率が1.5倍の場合は、求人数が100件のところ求職者数が66人程度しかいない計算になります。つまり44件は募集しても求職者が来ないという状況です。

また、新型コロナウイルスの影響で一時は外国人観光客の数が激減。自粛要請により日本人による国内旅行者も減少しましたが、その数は徐々に復活しています。需要の高まりは経済的によいことですが、実際問題としては客室清掃の人手不足が深刻化しています。

客室清掃において人手不足が起こる原因

客室清掃で人手不足が起きている原因としては次のようなことが考えられます。

労働人口の減少
過酷な労働環境

少子高齢化により生産年齢人口が減少。どの業界も人手不足ではありますが、特に客室清掃においては労働環境が悪いことから、人手不足が深刻化していると考えられます。

労働人口の減少

引用元：総務省「令和4年版情報通信白書｜生産年齢人口の減少」

日本の出生数は第二次ベビーブームを迎えた1973年の209万人から右肩下がりに減少。2019年には半数以下の87万人にまで出生数が激減しています。この結果、少子高齢化が進み、生産年齢人口（15～65歳）も減少の一途を辿っています。

総務省の「令和4年版情報通信白書｜生産年齢人口の減少」によると、生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じています。1995年には8,716万人いた生産年齢人口も2020年には7,509万人にまで減少。25年の間に1,200万人も減っていることになります。この傾向は今後さらに加速。30年後の2050年には5,275万人になり、30年間で約2,200万人も減少すると推計されており、さらなる人手不足に見舞われる見通しです。

過酷な労働環境

客室清掃はもともと重労働かつ低賃金の傾向がありましたが、人手不足が深刻化している現在ではその傾向がさらに加速。厚生労働省が運営する職業情報提供サイト（日本版Ｏ-NET）jobtagの「客室清掃・整備担当（ホテル・旅館）」によると、1ヶ月の労働時間が164時間に対して賃金が20万円となっています。

一方、総務省統計局の「第19章　労働・賃金」によると、産業別常用労働者1人あたりの平均月間労働数141時間に対して、賃金は36万円程度になっています。このことから客室清掃の過酷な労働環境が窺えます。

客室清掃員の詳しい仕事内容や、人材確保の方法に関しては以下の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。

「ホテル清掃員の仕事内容｜きついと言われる理由や人材確保の方法も解説」

客室清掃の人手不足によって起こる問題

客室清掃の人手不足によって、次のような問題が起こることが懸念されます。

スタッフの業務負担が増加する
人材確保のコストが増える
顧客満足度が低下する

スタッフの業務負担が増加する

たとえばこれまで10人いた従業員が8人になった場合、8人で10人分の業務負荷を分担することになります。さらに人員が3人減れば、10人分の業務負荷を5人で負うことになります。その分、給与などに反映されればよいですが、生産性は変わらない、もしくは下がるため「業務量・時間は増えたけど給料は据え置き（または減額）」となるでしょう。

また、人手が足りない状況下では容易に休みも取得できなくなることが予想されます。こうした労働環境の悪化により、さらなる生産性の低下に加えて離職率の上昇が懸念されるでしょう。

人材確保のコストが増える

離職率が高くなれば、人手不足を補うために採用活動を行うのが自然です。しかし、労働環境が改善されなければ定着率は上がらないので、採用活動を行うサイクルが短くなり、コストが嵩みます。また、採用する度に育成期間が発生。コストもかかるうえに、育成担当者は業務負荷がさらに増加することになります。

顧客満足度が低下する

ホテルの客室清掃ではチェックアウトからチェックインの時間までに、前日宿泊があった部屋の清掃を終わらせる必要があります。限られた時間内に少ない人数で終わらせる必要があるため、自ずと清掃の質は低下していきます。サービスの質は顧客満足度に直結するので、売上にも大きな影響を及ぼすため、早急に人手不足の解消を図る必要があります。

客室清掃の人手不足を解消する方法

客室清掃の人手不足を解消するには次のような方法が考えられます。

採用活動を見直す
業務用掃除ロボットを導入する
業務効率化ツールを導入する
人材派遣・紹介会社を活用する

採用活動を見直す

まずは定着率を上げる必要があるため、採用活動の見直しを行い、求職者とのミスマッチを減らしましょう。そのためには採用要件を明確にして、評価基準に沿った質問を考え、その内容に沿って面接を進める必要があります。また、事前に既存の従業員に対して「どういう人が合っているか」など、採用の条件を聞いておくのもありでしょう。

面接時には職場の雰囲気ややりがいといったポジティブな面だけでなく、悪い面も伝えておくとミスマッチの防止に繋がります。求職者にマイナスな印象を与えたくない気持ちが出てきますが、反対に正直な印象を与えることもできるので、むしろ「働きやすそう」と思ってもらえることもあります。

業務用掃除ロボットを導入する

床面の掃除を業務用の掃除ロボットに任せてしまうというのも一つの手です。業務用掃除ロボットを導入することで、大きな掃除機を運びながら移動する必要がないうえに、作業工数が一つ減るため、従業員の業務負荷軽減に繋がります。

業務効率化ツールを導入する

IoTツールを導入することでチェックアウトした部屋を瞬時に把握できるようになります。これにより空室を探す手間が省けるため、少ない人数でも効率よく清掃を進められます。また、自動受付システムを導入してホテルの受付を自動化すれば、フロントに常駐させていた従業員も清掃の時間帯だけ、清掃業務に従事できるようになります。

人材派遣・紹介会社を活用する

募集を出しても応募が来ない、急な欠員が出た、といった場合は人材派遣・紹介会社の活用も検討しましょう。人材派遣・紹介では、自社が希望する人材の条件や雇用条件などからマッチする人材を紹介してくれます。それも登録後すぐに探してくれるので、短期間で求めている人材が見つかりやすいという特徴があります。

報酬は成果報酬型なので、受け入れ・入社が決まらない場合はコストも発生しないうえに、採用活動を代行してくれるので自社社員の負荷を上げずに採用を行えます。もちろん慢性的な人手不足においても有効な手段なので、すでに人手不足に陥っており採用活動に割ける人員がいない場合は、人材派遣・紹介会社の活用も視野に入れておきましょう。

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