同一労働同一賃金とは?派遣社員への影響についても解説
非正規雇用者の労働条件の改善が求められる昨今、それを実現する手段として「同一労働同一賃金」という制度が注目されています。本記事では平等な労働条件を求める労働者の方、および法改正に対応するため同制度を導入しようと考えている企業の方向けに、同一労働同一賃金の概要、メリット・デメリットなどを解説します。
目次
- 派遣社員の雇用形態
- 派遣社員と正規雇用・有期雇用契約従業員の違い
- 派遣先均等・均衡方式
- 労働協定方式
- 労働者側へのメリット
- 労働者側へのデメリット
- 企業側のメリット
- 企業側のデメリット
派遣社員とは?
同一労働同一賃金について解説する前に、まずは派遣社員の雇用形態と正社員・契約社員との相違点について簡単におさらいします。
・派遣社員
派遣会社に登録または常用され、派遣先の企業で働く雇用形態
・正社員
企業と直接雇用契約を結び、常用される雇用形態
・契約社員
企業と直接雇用契約を結ぶ雇用形態。雇用契約に期間が定められている点で正社員と異なる
このように、3つの働き方には雇用契約先・雇用期間に違いがあることがわかります。
次項では、それぞれの雇用形態についてさらに詳しく掘り下げてみましょう。
派遣社員の雇用形態
派遣社員は派遣元の企業(派遣会社)と雇用契約を結んで働く雇用形態です。就業先の紹介・交渉・サポートや給与の支払い、そして福利厚生などは雇用主である派遣会社から受け、派遣先の企業からは業務指示を受けて働くことになります。
また、雇用形態は契約内容によって登録型派遣と常用型派遣の2種類に分けられます。登録型派遣では派遣先企業が決まったときから派遣会社と雇用契約を結び、派遣期間の終了に伴って契約も終了するのに対して、常用型派遣では期間を設けずに雇用契約を結ぶのが特徴です。
派遣社員と正規雇用・有期雇用契約従業員の違い
派遣社員は派遣会社と契約を結びますが、正規雇用の従業員(正社員)や有期雇用契約従業員(契約社員)は企業と直接雇用契約を結んで働きます。そのため、当該従業員の労務管理や福利厚生はすべて雇用先の企業が行うこととなります。
また、派遣社員と契約社員には原則3年という契約期間の上限がありますが、同一業務を3年以上連続で担当できない派遣社員に対し、契約社員では同一業務での契約更新の可能性があることも重要な相違点です。
派遣社員の福利厚生
派遣社員の福利厚生は、労働者派遣法によって「法定福利厚生」という名目でその権利が定められ、保護されています。さらに2020年の法改正により、派遣社員が不合理な待遇を受けないよう、派遣社員の福利厚生は通常の労働者、つまり正社員と同程度であることが求められるようになりました。
この同等の待遇には大前提として「同一労働同一賃金」という制度があります。次項からはこの制度について詳しく見ていきましょう。
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは、雇用形態による待遇格差の中でも特に根本的な、賃金による格差をなくすための制度です。政府が推進する「働き方改革」のひとつとしてピックアップされており、派遣社員をはじめパート・アルバイト・契約社員といったいわゆる非正規雇用の従業員が対象です。
正社員との不合理な賃金格差を是正するとともに、やむを得ず格差が発生する場合は企業側に説明義務が生じます。この制度の実現は主に下記2種類の方式でアプローチされるのが一般的です。
・派遣先均等・均衡方式
・労働協定方式
以下でそれぞれについて説明します。
派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式とは、雇用先である派遣会社と就労先である派遣先企業が協力し、派遣先企業の正社員の待遇に合わせて「同一労働同一賃金」を実現していく方式です。
賃金の待遇は大まかに「職務内容」「配置の変更範囲(昇進など)」に「その他の事情」を勘案して規定されますが、この条件が正社員と同じであれば、派遣社員へ支払う賃金も同じにしようという考え方です。
この方式では派遣先が変わるたび、派遣社員の待遇も派遣先の正社員に合わせて変動することになります。そこで法改正後には、下記の労使協定方式も取り入れられるようになりました。
労働協定方式
労使協定方式とは、人材派遣会社と派遣社員間の協議により、派遣社員と同じエリアで同種の業務に従事する正社員の平均賃金と同水準の賃金を支払うことで「同一労働同一賃金」を実現する方式です。
上述の法改正に伴い、働くエリア・職種別に厚生労働省が集計・公表する「賃金統計データ」を基準として平均的な賃金水準を算出し、派遣社員の実際の賃金に反映することが可能となりました。
つまり、派遣社員の賃金がこのデータにおける平均的な賃金と同等以上であれば、正社員との不合理な格差は解消されているとみなす考え方になります。
同一労働同一賃金のメリットとデメリット
それでは「同一労働同一賃金」は実際のところ、労働者や企業側にどういったメリット・デメリットをもたらすのかを列挙してみましょう。
・労働者側へのメリット
賃金や福利厚生面での待遇改善、スキルアップ・キャリアアップ、労働争議の解決
・労働者側へのデメリット
職務範囲の狭小化、正社員の賃金減少、新規人材採用の消極化
・企業側のメリット
人材定着率の向上、生産性向上、人事評価の客観性向上
・企業側のデメリット
人事労務システムの再編コスト、周知徹底の労力、人件費の上昇
以下で各項目それぞれの詳細をご説明します。
労働者側へのメリット
公平性が高まることで賃金をはじめとしたそれまでの待遇が改善され、施設の利用に関する制限が撤廃されたり、福利厚生が充実したりする可能性があります。正社員と同等の活躍を求められる場合、社内教育制度や研修制度が派遣社員にも拡充され、スキルアップやキャリアアップの機会が得られる可能性もあります。
また、法改正以降、派遣社員の均等待遇やその合理的説明に関する企業との争いが、行政ADR(裁判外紛争解決手続)の対象に含まれるようになりました。待遇改善を求め企業と交渉する労働者にとっては、第三者に仲裁を図ってもらい解決を目指せることから、救済の追い風となっています。
労働者側へのデメリット
企業側が人件費膨張を避けたい場合、契約社員が従事する職務の内容を正社員と同等未満に厳格に規定されてしまい、結果として賃金が下がってしまう懸念があります。
あるいは契約社員の担当業務はそのまま、正社員の賃金が契約社員と同等まで下がってしまう可能性や、新規雇用が消極的になり、現場の負担が増大する可能性もでてきます。
企業側のメリット
労働者が納得できる魅力的で公平な待遇を実現すれば、正規・非正規問わず人材が定着しやすくなります。加えて、求職者や職場復帰者の増加が見込めたり、モチベーション向上により生産性・効率性が向上したりすることも期待できるでしょう。
また、職務内容が配置や職位によって明確に規定されることになるため、上司や人事など評価する側にとっては評価方法が単純化され、正当な評価につながりやすくなります。この点は人事評価が待遇改善につながることを加味すれば、間接的に労働者側のメリットとしても捉えられます。
企業側のデメリット
体系化された公正な労働条件・賃金設定を実現するため、社内の人事・労務・教育といったシステムを再構築する時間的・金銭的コストが発生します。また、そうして構築したシステムに基づく労働契約書の改訂や待遇の変化を、文書や総会などの形で社員へ広く周知する必要もでてくるため、全社が少なくない労力を割くことになります。
そして、非正規従業員の雇用状況にもよりますが、単純に人件費や福利厚生費が上昇する可能性も高いため、企業側は長期的なメリットと当座のコスト面でのデメリットを天秤にかけ、導入のペースを考慮することになるでしょう。
労働者派遣法改定が福利厚生にもたらした変化
労働者派遣法の改正は労働者の待遇に大きな変化をもたらし、福利厚生もその例外でないのはご説明してきたとおりです。法改正以前は福利厚生について正社員と派遣社員の間に不合理な待遇の差があった場合でも、罰則規定は設けられていませんでした。
しかし、改正以降は2021年にもいくつか条文の追加を経て、休憩室や食堂といった福利厚生施設の利用や、各種手当や特別休暇のような派遣先企業が独自に提供している法定外福利厚生制度についても、不合理な待遇差や利用制限が禁止されています。
同一企業における不合理な待遇差は違反
上記のような禁止事項のほか、派遣先企業において派遣社員に対する不合理な待遇差がみられた場合は、労働者派遣法違反となり罰則が科せられます。ただし派遣先企業の落ち度であったとしても、罰則の対象は雇用契約を結んだ派遣会社となっているため、派遣先の選定には細心の注意が必要です。
しかし、派遣先企業もまったくお咎めなしということは当然ありません。違反の事実があれば勧告や企業名公表の対象となり、派遣会社からの人材斡旋を受けられなくなったり、取引先企業や顧客からの評価が下がったりする可能性もあるため、法令を遵守するに越したことはないでしょう。
派遣社員と正規雇用・有期雇用契約従業員はどちらがよい?
では上記を踏まえると、派遣社員と正規雇用・有期雇用契約従業員ではどちらが企業にとって良いのでしょうか。企業が人材派遣を活用するメリットとして、採用コストの削減、即戦力になる人材の確保などが挙げられます。一方で正社員を雇用するメリットには、必要に応じて転勤の内示を出したり、残業を任せたりができることなどが考えられます。
そのため、どちらが良いかは一概に言えないものの、自社にとって最適な条件で人材を確保することが良いでしょう。
まとめ
法改正以降、従来の派遣先均等・均衡方式だけでなく労使協定方式で平等性を担保可能になったことも相まって注目されてきた「同一労働同一賃金」の制度ですが、導入により非正規労働者にとっても雇用先企業にとっても多くのメリットがある反面、導入の方法によっては双方にデメリットをもたらす可能性もあります。
違反企業への罰則規定が設けられたことから、期せずして違反しないよう導入を急いでいる企業も多いかもしれませんが、本記事で解説したようなメリット・デメリットを考慮した上で、拙速な導入によって新たな不均衡が生じないよう、企業側は慎重に検討する必要があります。
また、労働者側も、企業へ求める待遇改善の解決策として企業ADRが加わったことや、厚労省の賃金統計データという算定基準を知っておくことで、不合理な待遇差が発生した場合の調停手段・交渉材料を少しでも多く持つことが自衛につながります。
導入の進む「同一労働同一賃金」が労働者側・企業側双方により良い影響をもたらせるよう、本記事で解説した賃金調整の方式や、表裏一体の側面もあるメリット・デメリットについてしっかり把握しておきましょう。
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